マリカフェ

世界の色んな料理や面白いレシピを見ると、ついカッとなって作ってしまう、ほぼ好奇心と食欲のみに突き動かされている料理ブログ

とってもオーガニックな犯罪者のパン

我が家で犯罪者のパン、と呼ばれている食パンがあります。

Dave's Killer Bread、アメリカ在住の方は店先で見たこともあるかもしれません。コスコ(日本ではコストコって言うのか!)にもありますねえ。文字どおりこのパンの顔になっているデイブさんは前科者。刑務所に15年入っていた札付きなのです。

彼のバックグウンドについては、他にも在米ブロガーの皆さんが書いたりしていますが、パッケージに書かれていることを要約しますと

「人生色々ありすぎて刑務所に15年も入っていたデイブさん。でもこのままではいけないと、出所後、ファミリービジネスでやっていたベーカリーへ。家族にまた受け入れてもらって一所懸命働き、彼が開発したオーガニックブレッドが大ヒット商品に!」

Killer Breadなんて物騒な名前がついていますが、殺人を犯したわけではなく、罪状は強盗やドラッグとからしいです。killer というと、すげー、超かっこいい、みたいな意味になります。でも15年も入ってたのか。

ポートランドで父親が始めたベーカリー、デイブさんはじめ兄弟は子供の頃から手伝わされていたそう。友達と遊ばずにちゃんと手伝う兄弟をよそにデイブさんはそれが嫌で反抗しまくり、グレて酒やらドラッグに走り、挙句の果てに強盗をはたらいて逮捕。

出所した後また家族のベーカリーに戻ってきたものの、家族と大げんかをして最後にはお兄さんの家に強盗に入り、そのまま東海岸に逃げたんだとか。その後もドラッグなどで逮捕され、また刑務所へ。出所後また、ベーカリーに戻りました。

2004年、そこで頑張って開発したのが、全粒粉や、色々なシードがたっぷり入ったオーガニックのパン。ファーマーズマーケットで売り出したものが評判が評判を呼び、今では全国のスーパーに卸されるまでに成長しました。

この会社はデイブさんのそんな背景から、前科がある人にセカンドチャンスを与えようと、そういう人達を積極的に雇用していることでも知られています。社員の30%がそういう人達だそうです。

www.daveskillerbread.com


なんでもアメリカ人の4人に1人はなんらかの犯罪歴があり、犯罪歴のある人が就職しようとすると、まず面接にこぎつけるチャンスも50%減るらしい。アメリカの総人口は世界の5%な一方、世界の受刑者の25%がアメリカ人なんだそうです。ヒ〜!

と言って、これは犯罪者が野放しにされず逮捕率が高いと取ることもできるし、国によって懲役の基準が違うこともあるし、色々統計のトリックがあると思うので、アメリカは犯罪者だらけだ!と簡単に考えて欲しくないですけどね。でもどちらにしろ、そういう人達にちゃんと再起の場を与えてあげようという取り組みは素晴らしいと思います。

ということで、とっても「フィールグッド」な感じのこのパン。買う方も、何か良いことを支援している気分になるしオーガニックだし、いい感じで買っていたのですが、この世の中、全てがハッピーエンドな物語というわけにはいかないようです。

デイブさんとこの会社、実はパッケージに書かれている以上な後日談がありまして。

オーガニックブレッドの成功で、家を数軒手に入れるなど、金銭的には成功したデイブさん。どうも色々見てみると、彼は札付きのワルだったというわけではなく、昔から鬱や自殺願望、双極性障害など、精神的な疾患を抱えていたようで、そういった部分が彼を犯罪に走らせてしまったようなのです。

ビジネスの成功後は、付き合いなどでお酒を飲む機会が出てきたのをきっかけに、アルコール中毒になり、リハビリ施設に入ったりしています。そしてある日、突然会社に現れた彼は自分の等身大のイラストパネルをぶっ壊し、社員に意味不明なことを言い始め、その後、駆けつけたパトカーに自分の車を突っ込んでまた逮捕されてしまいます。2013年のこと。

どうも大きな発作を起こしてしまったらしい。警察が駆けつけたのも、家族や友人が嫌がる彼を病院に連れて行ってもらうために呼んだそうですが、暴れたために逆に逮捕されてしまったらしい。2015年にはそういうところが考慮され、逮捕後入っていた病院から条件付きで釈放されています。

一方会社の方も、2015年にFlower Foodsという全米第2位の食品会社に買収されています。2億7500万ドル、日本円だと310億円をキャッシュで!今も会社の何割かを所有はしているらしいですが、デイブさんをはじめ、ベーカリーを始めた家族はもう直接経営には関わってはいないようです。

彼の顔やストーリーがでかでかと全面に出て売られているパンだけに、もう経営に関わっていないと聞いてなんとなくガクッとしてしまったけれど、そういえばモンダビさんのところもそうでした。

www.maricafejp.com

経営から離れたデイブさんですが、今は自分の経験を元に講演をしたり、アフリカンアートの収集に没頭して、販売サイトを立ち上げるなどしているらしい。

何度失敗しても、チャンスが与えられ立ち上がろうとする姿を見せ続けるデイブさん。お兄さんなど家族がファミリービジネスに迎え入れてくれたから成功もあったとも言えるけれど、よく知らないままちょっとうがったことを言うと、犯罪歴があったからこそ本当にそこにしか行き場がなかったのかなとも思ってしまいました。

もしかしたら精神疾患の原因は家庭環境や家族の関係が基盤になっていることだってあるだろうから、家族が良かれと思ってやったことも、もしかしたら無意識に負担になることだってあるかもしれない。何かもし他の場所でセカンドチャンスがあったら、また違った人生があったのかもな、とも思わないでもありません。

なんでも刑務所では製図プログラムの使い方を覚えて、あまりに上手かったので他の人に教えるほどになっていたというし。彼の話の一部については、Modern Farmerという雑誌に漫画として紹介されていたのですが、なぜかそこの部分がすごく心に残りました。

modernfarmer.com

何はともあれ、犯罪云々言うよりは、精神疾患に対するケアの大事さ難しさを逆に痛感してしまったこの話。

デイブさんのライフストーリーやそのビデオはここからも見れます

davedahl360.com