コーヒー、お好きですか。
実家のコーヒーはネスカフェだったし、学生・社会人時代は眠気覚ましとして何も考えずにガバガバ飲み、スタバがにょきにょき出来てからは、飲むのはラテやらアメリカーノばかり。
最近はそれこそブルーボトルだ何だと、地元で焙煎、一杯一杯ドリップしてくれるようなお店で飲むことも増えたけど、コーヒーは好きな割にかなり飲み方は雑なまま。
「一杯のコーヒーを飲んだ時、そこに神を見たことがあるか」
私はまだまだ見たことがないけれど、スペシャリティコーヒーに取り憑かれた、いわゆる「サードウェーブ」コーヒー文化を担った人達を取材した本「God in a Cup」(2008年出版)を読んだ。
サードウェーブってなあに?
アメリカのコーヒー業界には3つの波があると言われている。ファーストウェーブは戦中戦後に出回った、インスタントやスーパーで売ってるような粉のコーヒー。まずいコーヒーを全米に広めることに貢献した(苦笑)
1960〜70年代、コーヒーを美味しく飲む国から移民してきた人達が、コーヒーをローストして売り始めたのがセカンドウェーブ。
ピーツコーヒー、スタバもこの部類。実は今住んでいる家の大家も、イタリアから移民してきた小規模なセカンドウェーブのロースターである。しかしコーヒーをくれたことはない。
そして90年代に出てきたのが、サードウェーブ。
彼らは生産地や品種にこだわり、コーヒー農家と直接取り引きすることで質の高い「スペシャリティコーヒー」を提供しようとしている。直接取引することよって、農家の生活もサポートできるという社会貢献的な面もあるとか。
カッピングの妙
同じ品種のコーヒーでも、木が植わっている場所や高度、さらにその後の豆の扱いや処理で全然味が変わってくる。でもコーヒー農家も、今までそんなことは知らずに良い豆もそうでないものも、収穫したら全部いっしょくたに混ぜて出荷していたらしい。
サードウェーブの人達は、自ら現地に赴き、どの地域の、どの農家の、どのロットのコーヒー、というところまで細かく絞り込むことで、質の高いコーヒーを手に入れることに腐心する。
ニカラグアで開かれたコーヒーの品評会の様子も面白い。Cup of Excellenceという品評会が世界各地で行われていて、コーヒーのテースティング(カッピング)をするのだけれど、チョコレートやスパイス、花や果物など、ワインテースティングのように色んな言葉を使って表現していくのが興味深い。
ちなみに世界各地から審査員が集まるこの品評会、日本からは丸山珈琲の丸山健太郎さんという人が審査員として登場している。
皆、コーヒーをジュルジュルすすって味を見極めるのだけれど、その中でも誰よりも大きな音をたてて、最後までじっくり味見する彼をみんなすごくリスペクトしているらしい。
品評の場では、言葉の問題から、時々彼が何を言っているのか不明らしく、そのせいか扱いが多少仙人風になっている。彼の発言を「今彼が言った意見は多分こういうことだと思う」・・とみんなが一生懸命読み取ろうとしているのが、ちょっとおかしかった。
こういう品評会で高い点数がついたコーヒー豆は、ものによっては普通のコーヒーより何十倍、時には何百倍の値段がつくんだとか。
その中でもパナマで生産されているゲイシャ種の「ハシエンダ・ラ・エスメラルダ」という銘柄は、ローストされていない豆が1ポンド150ドルまたはそれ以上で取引されるなど、この本が出た当時かなり究極のコーヒーとして注目されていたみたい。うーむ、飲んでみたいが、一杯いくらだろう?!
コーヒーは大変だ
この本の著者はロースターと一緒にニカラグア、エチオピア、パナマなどコーヒー生産地にも行って取材しているのだけれど、コーヒーってものっすごく大変そうだなと思った。その理由はなによりも、スペシャリティコーヒーの生産地がどこも発展途上国なところにある。
コーヒーを育ててはいるが、ちゃんと飲んだこともない生産者もいる中で、ロースター達はコーヒーの品質を生産者が自ら理解できるように現地にカッピングのラボを開いたり、生産方法の指導をしたりもする。
場所によっては現地に行くこと自体が大変だったり、政治情勢に左右されるところもあり、流通や支払いも一筋縄ではいかない。
収穫に携わる山岳民族が文字を持たないため、収穫方法を伝授するのに苦労したり、より良い生産方法を教えても、変化を嫌う農家の抵抗にあったりと、文化の違いやコミュニケーションの問題にも直面する。
特にコーヒーはコモディティとして値段が下がる一方な中で、高品質のコーヒーを生産することは、農家の生活を安定させることにもつながる。そのためにはインフラの整備、設備投資に生産指導と、思い切り開発援助に関わることが必要になってくる。
実際ルワンダなどは国がぐちゃぐちゃになった後で、USAID(アメリカ版JICAみたいな機関)の支援が入り、スペシャリティコーヒーの生産に成功した場所なんだそう。
そういう公的機関が入り込んでやるようなことの一部を、ただただ美味しいコーヒーを求めてやってきたいち中小企業であるコーヒー屋さんが、思いがけずがっつりやっちゃっている面もある。中には生産地の医療や教育面のサポートまでしているコーヒー屋もあった。
コーヒーに取り憑かれた人達
2008年に出版されたこの本は、当時のサードウェーブの雄として、ノースカロライナのCounter Culture、シカゴのIntelligentia Coffee、ポートランドのStumptown Coffeeと、業界では有名な、コーヒー担当のエグゼクティブ達を追っている。
美味しいコーヒーを求めて世界中を飛びまわる彼らはある意味冒険家であり、彼らの生い立ちや背景もなかなか一筋縄ではいかない。またカフェで働くバリスタ達も、皆かなりエッジーな感じの人達で、今のアメリカのコーヒー文化は、こういう人達によって作り上げられてきたんだなーということがよく分かる。
ベイエリアでもちょっとこだわりのカフェに行けば、入れ墨を入れた若いヒップスター風のバリスタが、目の前で焙煎したコーヒーを1つずつドリップしたり、流れるような手つきでエスプレッソを入れたりしてくれる。コーヒーのことをちょっと質問したら話し出して止まらず色々味見させてくれたりもする。
日本は昔から(無口なマスターがw)質のいいコーヒーを淹れてくれるような喫茶店文化があったけど、それとはまた違った形で進化をとげてきたアメリカのコーヒー文化。こうやってコーヒーに取り憑かれた人達の並々ならぬ熱意というか愛というか執着を垣間見れた面白い本だった。
豆を買って家で淹れるにしても、カフェでコーヒーを頼む時にしろ、もう少し気をつけて飲もうかね・・という気にもなったのでありました。
追記
コーヒー業界の動きはよく知らなかったのだけど、この本を読んだ後IntelligentiaやStumptownのその後について調べてみたら、なんとピーツコーヒーに買収されていた。
まだブランド名やビジネスはそのまま保っているようだけれど、やはり経済面やオペレーション面で色々難しい部分もあったんだろうか。などと考えていたら、今度はブルーボトルまでネスレに買われてしまった。
シリコンバレーのスタートアップ同様、大きなところに買われるのがめでたいのか、そうなってしまうのは食品業界でもよくあるとはいえ、なんだかがっかり。
でもセカンドウェーブのコーヒー屋も、サードウェーブの波に乗りたい戦略もあったんだろうし、サードウェーブのエグゼクティブ達も歳をとるにつれて、色々優先度が変わってきたというのもあるんだろうなあ。
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はてなブログとは別に、note.muに料理とは別の食べ物エッセイを書きなぐっていましたが、食べ物関連で書いたものは全部ここに一つにまとめようか、悩み中です。長めの文章を見やすくまとめられる場所は一体どこだ〜!この記事も以前noteに書いたものですが、少しずつコンテンツをこっちに移してみて、様子を(何の?)みようかと思います。