マリカフェ

世界の色んな料理や面白いレシピを見ると、ついカッとなって作ってしまう、ほぼ好奇心と食欲のみに突き動かされている料理ブログ

納豆錬金術

大英帝国の首都ロンドン。しかしアジア人といえばまずはインドやパキスタン人を指すこの国では、和の食材の調達はそれほど容易ではない。

家から一番近い日本食材屋まで、電車で40分。距離的にはそれほどではないが、感覚的には練馬から新宿まで食材の買い出しに行く感覚である。食材も安くはない。納豆は40グラムちょっと入ったものが4パックで、2-3ポンドはする。日本だと100円ちょっとのものが、260~400円近くになる計算である。

かくして納豆はたちまち超高級品となり、ロンドンの我が家の食卓にのぼることは、数か月に一度あるかないかとなってしまった。

無ければ無いで、現地のものを食べてやり過ごしている我が家であるが、この数か月のロックダウンの間、楽しみが食べること位になってしまったため、手に入りにくいものが余計手に入らないという状況に、納豆に対する憧憬は増すばかりとなった。

そうこうしているうちに、納豆どころか味噌もとうとう切れてしまった。意を決した夫が、ある日「アジア食材屋」だからもしかしたらあるかもしれない、とネットで見つけた数キロ先にあるタイ食料品屋に自転車を走らせた。そして奇跡的にそこで売られていた納豆を2つ買って帰ってきた。3パックが一つになっているおかめ納豆が、約400円。

数か月ぶりの納豆に歓喜の声を上げる私と娘。アメリカ人の夫も納豆は普通に食べるが、高級希少品であるがゆえに、自分は遠慮して、納豆への執着が強い私達にばかり食べさせてくれる。

これではとても足りぬ、しかし腹いっぱい納豆を食べようものなら我が家は破産する。家族全員が思う存分納豆を食べる手立てはないものか。

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そこで貴重な納豆の1パックをとっておき、乾燥大豆をオンラインで2キロ注文して、納豆を自宅で増やすことにした。うまくいけば、豆さえあれば無限に納豆が食べられる、納豆錬金術である。

作り方はネットで色々あがっている。大豆を一晩水につけ、豆を蒸すなり煮るなりして柔らかくする。煮沸消毒しておいたタッパなりの容器に豆を入れ、そこに既製品の納豆を混ぜ込む。納豆数粒を水につけ、粘りが付いた水を混ぜ込む方法もある。

後はクーラーボックスに、電子レンジで温めるタイプの保温パッドと一緒にまる1日放置する。ちょうど気温の高い日が続いたので、家の中でも一番西日があたるベッドルームに置いておいた。

ボックスの中はかなり温かく、菌が育つには最高の環境が出来上がっていた。食べ物が腐るにも最高の環境であるが、納豆菌が面白いように増殖して、早速納豆の匂いがする。

蒸気で蓋に水滴がつくので、蓋の下にはペーパータオルをかませておいて、何度か取り換えた。保温パッドも何度か温めなおして入れた。

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そして翌日出来たのがこれである。気になって何度も蓋を開けて匂いを嗅いでしまったが、そういえば納豆の正解の匂いが何なのか、よくわからない。雑菌が入っていれば雑巾のような臭いがしたりするらしいが、そういうわけでもない。

これを、2日間冷蔵庫で熟成させる。冷蔵庫に入れることで発酵が止まり(発酵しすぎるとアンモニア臭が出るらしい)、味がなじむらしい。恐る恐る混ぜてみると、かなり強力に糸を引く。意を決して食べてみると、それは紛れもない納豆の味だった!

かくして、納豆貧民だった我が家は、三晩で納豆富豪となった。一度に仕込んだ量は500グラム。おかめ納豆なら、10パック分。そう考えると大した量に思えないが、あと1キロ半の豆が残っているので、ちょっと仕込めばあと30パック分の納豆ができる計算になる。

泉のように湧き出る納豆。大量にあると今度はそれに安心して、食べなくなってしまうという恐れもあるが、今我が家の冷凍庫には小分けにされた納豆が大量に眠っている。そして既にかなりのペースで消費が進んでいる。

先程も夫は、今まで食べられなかった分を取り戻すかのように、3パック分位の納豆をボウルに入れ、辛子を混ぜてそのまま食べていた。そしてすごいレシピを考えた!パスタに納豆と生卵をトッピングするなんてのはどうだ!イタリア人もビックリだ!とまるで自分が世紀の発明をしたかのように興奮していた。今まで希少品だったがために、納豆パスタを食べさせたことが無かったのである。

これからは納豆汁でも納豆巻でもイカ納豆でも、ご飯に乗せる以外の方法でも納豆を食べることができる。納豆バブル、納豆成金、納豆富裕層。しばらくしたら飽きてしまうのかもしれないが、飽きるまで作って食べるぞ。